初回記事①息子に会いたい
前回記事㊳コロナウイルス
試合はまだ決まっていないが、もし今決まったら。
練習大好きチャンピオンが試合の時に履くトランクスについて教えてくれた。
大阪のボクサー達はボクシング用具を主に梅田にあるMIZUNOで購入する。
ボクシング用品は需要が少ない上に供給も少ない。エクササイズ用だったらまだ何とかスポーツ用品店で見かけることができるが、プロが使う公式の道具になってくると大阪ではMIZUNOでしか販売していない。
更にグローブは半年待ちなんてこともある。注文が来てから作り始めたりするものだから納品までに時間を要する。
試合が決まってからトランクスを注文していては下手すると間に合わない。
ちなみにトランクスとは試合の時に履くパンツのことだ。
※写真参照

一応MIZUNOの店頭にはトランクスが常に並んでいる。しかし試合は晴れ舞台、ほとんどの選手は自分のオリジナルを作りたい。もちろん自分も。
あのリングは自分の想いを表現する場所だ。
なぜ自分がここに立っているのか、その思いを目で見える形で表現できるのがトランクスだ。
人によっては大事な言葉が入っていたり、大切な人の名前が入っていたり、よく見るといろんな想いが詰まっている。
作ることを決めるもっと前からどんなデザインにするかはもう決まっていた。
ある程度のイメージを持ってMIZUNOに出向むく。
そこには顔なじみの店員さん。カウンターでオーダーメイドを受け付けてくれる。
ここは大阪中のボクサーが買い物に来る。
しばらくすると他のジムの選手も来た。
名前は石田匠(いしだしょう)。
世界ランカーで2024年に井上尚弥の弟と戦ったのを最後に引退した選手だ。この時は2021年。
なにやら店員さんと会話している。
石田匠「あのカウンターにいる子グリーンツダジムにいるタイ人ですよね」
もう何人でもいい。国籍なんてどうでもよくなってる。
とりあえず世界ランカーに顔を知ってもらえて光栄です。
店員さん「私も始めそう思ったんですよ、日本語しゃべっててびっくりしました。日本人みたいです」
ある程度デザインは決めていたのだが、かなり細かいところまで選ぶことができたのでデザインが完成するまで結構時間がかかった。
どこにどの色を配置するのか。この色の生地はどこで切り返すのか。光沢もしくはマッドな生地にするのか、または場所によって生地を変えるのか、名前はワッペンを付けるのか刺繍にするのか、
もしスポンサーがいるとあまり費用は考えずに自分の想い通りのデザインにさせてもらえるのだが、アルバイト生活の私にとってはやはり財布との相談になる。
出来上がったトランクスはデザインがシンプル。
確か3万円くらいだったはず。
デザインに凝ると5万円は余裕で超える。


数年前までレゲエDJだった。なのでカラーはジャマイカカラー。
血が飛び散っても洗い流せるように汗を吸収しない光沢の生地。
名前はもちろん子供の名前。縫い付けて取れないようにし正面に持ってきた。
大切な人の名前をお尻の部分に入れるという人がいる。これは尻餅をついて大切な人を踏んづけてしまわないように、つまり絶対ダウンしないぞという決意の表れでそこに入れるのだそうだ。
しかし自分の場合は前に入れた。
写真を撮る時はきっと正面から撮る。正前にあると子供の名前と一緒に写る。
ネットで父親を検索したときに、自分の父親だと少しでもわかりやすくするために前に入れた。
野球やサッカーなどの団体競技とは違い、好きなように個人の想いをデザインで表現できるのがボクシングだ。
会長から「そろそろ試合出場するぞ、今対戦相手探してるから」と声がかかった。
スパーリングをしてても今までより実力がついてきていることが自分でもわかる。
そろそろか。
自分があのリングに立つなんて全く現実味のない話だったのに、いつの間にか目の前までやって来た。
少しづつ戦う意思が芽生えてきた。
次回記事㊵試合決定、そしてアクシデント