⑲かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~腐る前に脱出~

初回記事「①息子に会いたい」

前回記事「⑱納豆のスポンサー」

目次

スパーリングは本当に苦手だった。

痛みやしんどさは耐えられるのだが、毎回打たれすぎてスパーリング後は絶対に頭がぼーっとする。

本当に怖い。

普通だったら週3回くらいスパーリングをするべきとこだが、自分の場合は2週間全くしないこともあった。

あまり積極的に自分からスパーリングの練習をすることは無かった。

スパーリング中は必死なのでその怖さは忘れているが、終わった後どうしても頭がおかしくなっている。

パンチのもらい方が悪い!ガードの仕方が悪い!等の指摘を受けるがパンチのもらい方なんてどうやって練習するのだ?

顔を殴ってもらう練習なんか危なすぎて誰もしない。

ガードをしようにも手が重くて全く上がらない。

ボクサー達はどのようにしてあの姿勢を維持しているのか。

どれだけ腕を鍛えても手を上げっぱなしにはできない。きっと力の入れ方だ、コツみたいなものがあるのだろう。早くそのコツを見つけなければ。

ある日正面からのパンチを顎にもらい、顎の関節がおかしくなった。

痛ーーーーっ!!

口が開けづらくなる。

また違う日も正面からのパンチを顎に受け関節が痛む。

どうやらしんどくて口呼吸になった時に顎の筋肉が緩み、その時にパンチをもらうと顎の関節がおかしくなるみたいだ。

パンチは顎だけにもらうのではない。顔のいろんなパーツに降り注いでくる。

その中でも鼻と顎が一番痛かった。

鼻、顎、鼻、顎、鼻、顎、

またまた顎。

たとえスパーリングをする機会が少なくても、何回ももらっているとやはりおかしくなってくる。

そして鼻までおかしくなりだした。

鼻腔がだんだん狭くなる。

スパーリングをするたびに鼻にパンチををもらい呼吸が難しくなってくる。

そのうち日常生活ですら完全に息ができなくなってくる。そうすると口で呼吸する為に余計に口が開いて、

その顎にまたパンチをもらって、、、、、、、、

ついには口も開かなくなった。

朝からバイトなのに朝ご飯が超スローペース。

味噌汁に入っているキャベツを一枚一枚食べる。

さすがにこれはどうにかしなければ。

まずは耳鼻科に行くことにした。

ボクシングをするためにこの辺に引越しをしてきたが、いったいどこの耳鼻科がいいのだろう。

とりあえず目に入ったところに飛び込んだ。

さて、耳鼻科をイメージしたときどんな光景が思い浮かぶだろうか。

医療関係ということもあり中は清潔、壁紙は白ベースで明るめ、子供に安心感を与えるために絵本やアンパンマンの人形なんかがある。中では患者さんが何人も呼ばれるのを待っており、ぼーっと突っ立っているナースはいない。

少なくとも私の耳鼻科のイメージはこんな感じだ。

しかし今回飛び込んだ耳鼻科は床がどす黒い緑。

目の前にあるスリッパに履き替えようとしたら「そのままでいいですよ~」と声がかかる。

土足で入るのか???

なぜスリッパがあるんだ???

中を見渡すと薄暗く、患者は私一人。

笑うセールスマンに出てきそうな耳鼻科だ。

誰も待っている人がいないのですぐに治療に呼ばれ、先生の前に座る。

この治療をする部屋にも違和感を覚える。

とても広い部屋の中に椅子がたった一つ

そして先生の後ろに並んでいるナースが1,2,3,4人?????

全員立っているだけ、ただ先生の後ろに並んでいるだけ。

暇なのはそちらの勝手だが、なぜ並んでいる?

しかもキレイな人達

受付にも2人ほどいたが、この患者の人数でどうやって給料を支払っているのだ。

経営を通り越して趣味なのか?

診断が始まる。

「これ蓄膿やね。パンチもらいすぎて中で腫れてるわ。抗生物質出しとくからそれ飲んだらすぐ治るよ。それで治らんかったらまた来て。はい、これで終わりです」

ナース1「お大事に~」

ナース2「お大事に~」

ナース3「お大事に~」

ナース4「お大事に~」

きっとこの人たちの仕事は患者を笑顔で迎え、笑顔で見送ることだけなのだろう。

滞在時間5分

土足ですっと入ってぱっと帰れる。

なかなか独特な雰囲気の耳鼻科だ。ドライブスルーくらい手軽なとこだった。

「スっとパっと耳鼻科」

それ以来二度と行くことは無かった。

鼻はすぐに治った。

抗生物質がよく効いたみたいだ。

私の引っ越してきた大阪市生野区(いくのく)はこの耳鼻科に限らず独特な雰囲気を持っている。

大阪のディープな町として岸和田、西成(にしなり)を良く耳にするが、生野区も負けてはいない。

特に私の住んでたマンションは酷かった。

荷物で両手が塞がっているからと、ごみ袋をサッカーボールみたいにドリブルしながらゴミ出しするおばちゃん。

シチューをゴミ袋に入れているせいで野良犬が袋を引きちぎり、シチューが道路に散乱。それを掃除する小鳥たち。

ラーメンの日もあった。

そんな小鳥たちのさえずりと共に朝が始まる。

エントランスで部屋番号を押して唾を吐きながら住人が応答してくれるのを待っている若者。

ウーバーイーツの配達員に「今俺にぶつかったやろ!!」といちゃもんを付ける酔っぱらいのちっちゃいおっちゃん。

駐輪場での自転車の盗難。

目の前のマンションの火事。

隣のアパートの殺人事件。

私のマンションでの飛び降り自殺。

たった4年程しか住んでなかったがいろんなことが起こった。

ちなみに私の住んでいたマンションは何人か死人が出てるらしい。近所の喫茶店で教えてもらった。

早くこの部屋を抜け出さなくては自分の何かが腐っていきそうだ。

環境はマインドに大きく影響する。

マインドが変わると行動が変わる。行動が変わると未来も変わる。

悪い方向に変わらないうちに早く逃げ出さなくては。

ボクシング道具紹介記事

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