㉙かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~支店長からのお祝い~

初会記事「①息子に会いたい」

前回記事「㉘プロテスト結果発表」

目次

銀行を辞めてから時折元上司の支店長からメッセージが届いていた。銀行を辞めた後も私の近況を気にかけてくれていた。

本当にたまに来るメッセージだったが応援してくれていることがうれしかった。

もちろんプロテストに合格したことを報告する。するとうれしいことにお祝いするから一緒に食べに行こうと誘ってくれたのだ。

家族の反対を押し切り、職場の引き止めを振り切って始めたボクシング。

部下が辞めることを上に報告したときは人事評価にきっとマイナス点が付いたはずだ。

私の営業成績が低空飛行を続けていたせいで店の成績が上がらなかった上に、 退職されて本当ならちょっと恨まれてもいいはずなのだがわざわざお祝いをしてくれるのだ。

しかもボクシングで忙しいだろうからと私の家に近い店、且つカロリーがそれほど高くない店を選んでくれた。

そういえば相手への思いやりをこれでもかと考える人だったことを思い出す。常にお客さんに対して最新の注意を払いながら面談をしていた。不快感の無い言葉遣い、ふるまい、絶対起こさないミス、決して慌てるそぶりを見せず堂々としている。

銀行員のイメージそのままの人だった。今回のお誘いのメッセージからもそんな丁寧さがうかがえる。

元部下なんだからもう少し雑に扱ってくれてもいいのにとさえ思う。こういったことをプライベートでもできるからこそ支店長にまで上り詰めたのだろう。自分には到底不可能だ。

お店に行くとすでに支店長が席で待ってくれていた。ゲストは絶対待たせない。そして私を上座に案内するところもさすが支店長。さらにお祝いのプレゼントとしてTシャツまで買ってくれていた。

これは今でも捨てずに持っている。

銀行ではたった9年間しか働いていなかったが、こういった人たちに囲まれていたのは確実に自分の財産になっている。

礼儀作法、丁寧な言葉遣い、この話をするとお客様はどんな感情になるのかの先読み、もちろん銀行員時代に完璧にはできなかったが、そういったアンテナを張る癖を教育してもらった。

たった一年前までそんな環境で働いていたことを支店長のふるまいが思い出させる。

このときどんな話をしたか具体的なことはもう忘れてしまったが、一つだけ印象に残っていることがある。

支店長が少し疲れていた。

それほど苦しい環境に追い込まれているのだろう。

この頃はコロナウイルスが猛威を振るい始める半年ほど前。ただでさえ世の中の低金利の影響で銀行の金利収入が減る一方なのに、ほどなくして銀行業界は更に経営が厳しくなる。

この時テーブルを挟んであちら側とこちら側で、支店長と私が両極端の世界に住んでいるように感じた。

将来の為に今を耐え忍ぶ支店長の生き方か、

将来のことは横に置いといて今を生きる私か。

目の前に運ばれてきた料理からも世界の違いを感じさせられる。

自分で食べに行くことができないものばかりが目の前に現れる。きっとサラリーマンを続けていたらそんなことは感じなかっただろう。

外食ができないのも自分が進みたい道に突き進んだことによる代償だ。受け入れる覚悟があったからこそ銀行から抜け出した。

改めて自分から経済力が抜け落ちたことを自覚する。

せっかく将来を犠牲にして今を生きている、

今を意味のある物にしたいのなら中途半端な結果で終われない。やはりある程度の結果を残さなければけないのか。

この時の支店長は私を見てどんなことを感じていたのだろう。

私と同じことは感じていなくても、住んでる世界の違いは感じたと思う。

「しっかりがんばるんやで、応援してるから」

なんだかいろんな想いが乗っている言葉のようにも受け取れた。

銀行を辞めるときに支店長から受け取った言葉は今でも強く自分の記憶に刻まれている。

ミーティング終わりの応接室で銀行を辞めさせてほしいと意思表示をしたときのことだ。

「今までやりたいことを見つけて安定の銀行員を捨てた人はいっぱいいたよ、もちろん辞めないよう説得はしたけどね、それを振り切って夢を追いかけてる人たちと今でもちょくちょく交流がある。その人たち全員に共通していることはね、みんな幸せそうに生きてる。がんばるんやで」

銀行員をしていると、良心の呵責と戦うことが多々ある。

目の前のお客様はとても尊敬できる大好きな人。なのに大きく損をするとわかっているものを会社から売れと言われてそのプレッシャーに勝てないことがあった。

きっと支店長もそうだった。

会社として社員が辞めていくのは必至で止めなければけない。支店長もその会社の方針に従って私の退職を考え直すよう説得しただけだ。

でも内心ではわかっている。自分が本気でやりたいことを見つけたらその道に進む方が幸せだと。

応接室で最後にかけてくれたあの言葉は本当は伝えたかった支店長の本心だったと信じている。悪く評価されるにも関わらず、自分のキャリアより私の幸せを後押ししてくれたことを今でもうれしく思う。

そんな背景も感じ取れたからこそ、あの言葉は強く心に残っている。

さて、これからどうしよう。

やっぱりボクシングを続けた方がいいものか。そして試合出場の声はすぐかかるのか。

あの舞台に立つことを考えるとやっぱり怖い。

ボクシングお勧め用具記事

次回記事「㉚キッチンの効率化」

※毎週火曜日の夜に新しい記事を更新しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA