③かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~プロボクサーを目指す決心~

初回記事「①息子に会いたい」

前回記事「②ボクシング中心の生活始まる」

目次

ジムの会長に興味本位でプロってどうやったらなれるんですかと聞いてみた。

少なくとも今のジムでどれだけ練習を頑張ってもなれないと説明を受けた。プロテストを受けるためにはプロ登録をしているジムからプロテストを申込む必要がある。今のジムはアマチュアジム。必須条件を満たせていない。

「もしプロテストを目指すなら違うジムに行かないとあかんわ。この辺には無いなあ。大阪の有名なところで言うと、大阪帝拳ジム、井岡弘樹ジム、グリーンツダジムの3つかな」

正直今までボクシングに注目したことがなかったからこの3つのジムの名前すら聞いたことがなかった。

しかし大阪のボクシング界ではとても有名なジムである。

大阪帝拳ジムからは辰吉丈一郎、井岡弘樹ジムからは井岡一翔、グリーンツダからは赤井英和を輩出している。

初めて聞くジムの名前。「へ~そんなジムがあるんですねえ。どこにあるんですか」としか反応できない。それほど今までボクシングとの関わりが無かった。ボクシングに関しては超ド素人。

プロボクシングなんて遠い世界の話。テレビに映る入場シーンに何度か憧れたが、30歳からプロを目指しても絶対なれるわけがない。あんな舞台に立つことなんて文字通り「夢」だ。

プロの世界は別世界だと感じながらも、やはりボクシングに関わっている以上その世界に興味は湧く。

たまにジム内でプロの世界について話題が上がる。

プロにはAランク、Bランク、Cランクがあり、今まで全くボクシングの試合の経験が無い者はCランクのテストを受けることになるみたいだ。たまに芸能人でプロライセンスを取ったとニュースになるが、あれはCランクのライセンスらしい。

片岡鶴太郎、漫才トリオのロバート山本。この人たちはCランクのライセンスみたいだ。

「Cランクはそこまでレベルは高くないねんな。思いっきり頑張ったら1年くらいでライセンスは取れると思うわ。レベルってそんなもんやで。取ったところでボクシングしてる者からすると自慢できるほどの価値はないなあ。

むしろ不利な立場になるわ。戦う技術が十分じゃないし、町なかで絡まれて反撃したら過剰防衛で捕まるし。Cランクのライセンスを取るのがゴールっていうならお勧めはでけへんな」

会長はあまり変なことを考えないよう釘を刺したのだろう。

価値はない、不利になる、

でも私には「今からでも頑張ればライセンスを取得できる。チャンスだ!」と聞こえてしまった。

本当に自分もプロになれるのか。今まで考えもしなかったことが頭の片隅にへばり付き、徐々に火花を散らし始める。

かっこいいお父さんを目指してこの1年間ずっと頑張ってきた。

プロになったら少しは自慢できるお父さんになれるのか。いやいやこんなの自己満足だ。かっこよく思ってくれるかどうかなんて自分が決めることじゃない。かと言ってこのまま銀行員を続けて冴えない営業成績を残したところで、胸を張れるのかと聞かれると疑問が残る。養育費はどうしよう。養育費を払えているのは今の銀行員の給料があるから払えているわけで、、、、プロを目指すなら練習時間を確保するためにアルバイト生活をすることになるだろう。

収入は今の3分の1位になる。収入が減ったんだったらきっと調停を起こして養育費を下げれるだろう。それは息子の為になるのか。たしかに養育費は大切だ。でも、、、、、お父さんの役目はお金を払うだけなのか。もっと大切な役目があるんじゃないか。

私はあの子のお金になりたいんじゃない。

父親になりたい。

世の中は「養育費を払うことは父親の役目だ」というが、では養育費さえ払っていれば父親なのか。父親の存在よりお金の方が大切なのか。父親はお金なのか、いや違う。養育費を下げてでもそれ以上に大切なことを与えられるんじゃないか。一緒に住んでるお父さんだったらきっとそれができる。自分もそうしたい。私は子供を教育することはできない。でも父親として生きていきたい。

私が見せたい父親としての姿、、、、「生き様」。

「会長、プロ目指してみたいです」

いきなり何を言っているんだと少し呆れた表情。ライセンスを取るだけだったらそこまで価値がないことや、危険な競技で死人も出るし、脳がダメージ負って障害が残るかもしれない、リスクとリターンが合ってないしそもそもテストを受けるには年齢制限がある。

正確な数字はわからないが30歳前半であることは確か。下手すると間に合わないと説得を受けるが、気持ちがなかなか正常な位置に戻ってこない。むしろどうすればプロになれるのかをもっと知りたい。

ある日の夜、ネットでプロボクサーに必要な練習などを検索していた。朝の走り込み、夕方から2時間ほどの練習、これをがむしゃらにこなすと1年くらいでプロになれるみたいだ。しかし夕方からの練習、これがどうしても仕事の時間と被ってしまう。ちょうどいい時間に開いているジムがない。

やっぱりプロを目指すなら今の仕事を辞めるしかないのか。

そして年齢制限は、、、、、えっ、33歳。今30歳だけどもうすぐ31歳、つまり2年しか時間が無い。

(あとでわかったのだが、ネットの記事の情報は古かった。現在は34歳まで。35歳になるとテストを受けられない。)

これが気持ちを焦らせる。早く動き出さなければ。

そして次の日、この日のことは今でも忘れない。

朝出勤すると電気をつけたはずのオフィスがとても薄暗い。

全くの異世界に来た感じ。あれ、こんなにどんよりしてたっけ?

それだけじゃない。ものすごく息苦しい。

え、こんなところにいたくない。

いつもどおりパソコンのスイッチを入れる。

なぜ今自分はパソコンのスイッチを入れているんだ、なんでノートを広げて朝のミーティングの準備をしているんだ。時間が無いのにこんなことをしてていいのか。練習はどうした?仕事なんかしてていいのか?おいっ、いったいなにしてるんだ!時間が無いぞ!

胸が締め付けられる、なんだこの感覚は。本気で苦しい。

苦しさを抱えたままミーティングに入る。ミーティングの内容なんて頭に入ってこない。体の底から何かが込み上がってくるのがわかる。心が大声を上げてドアを叩いてる。しっかりと鍵をかけるがもう破壊されそうだ。そしてタイミングを待っている自分がいる。

ミーティングが終わった。よし、今だ!!

「支店長、お話があります。ちょっとだけ時間いいですか。

仕事辞めます。プロボクサー目指します」

お勧めボクシング用具

次回記事「④周りの反応、、、」

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