㊲かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~わざとらしい会長~

初回記事①息子に会いたい

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目次

会長「よし、気持ちは分かった。もったいないけどな。でもジムの運営だけは少しの間手伝ってくれ。いきなり辞められるとそれは困る。そこだけは1カ月でいいから続けてくれへんか?」

もちろん今までお世話になったジムだ。できるだけ迷惑をかけたくはない。

「はい。もちろんです。フィットネスの人たちや子供たちの指導は今まで通りします。でもそれが終わったら練習せずに帰ります。」

その日は会長との面談が終わるとすぐに帰った。家に帰って一体何をしていただろう?

今まで練習とアルバイトで全く時間が無く、体を休めることすらできなかったのに、練習の時間が無くなったせいで急にぽっかり時間ができた。

特に仕事を探すわけでもなく、ただただ家で本を読んでいたような気がする。

今まで時間が無くてしんどかったのに、目的を失った途端、与えられた時間は全く持って無駄になる。

アルバイトに行き、ジムで働き、練習せずに家に帰る。

ジムに行くと「岡ちゃん、もうやめるん?試合出てないのにもったいないって」と選手たちに声を掛けられる。

どれだけみんなから引き留めの言葉をもらっても1ミリも心が揺れなかった。心が動かない自分を感じる取るたびに(やっぱりボクシングから心が離れてしまったんだな。 。 。 。)と認識する。

こんな生活が1カ月ほど続いた。毎日メリハリのない日々。新しい刺激が何もない。これから何をしたいのかもわからない。何か行動を変えなければきっとこのままずるずる行く。

ある日ジムにお客さんが来た。

「おう、岡橋!!まだやってんの??久しぶりやな」

昔グリーンツダボクシングジムで指導をされていた方だ。本業の事業が忙しくなり辞めてしまったらしいのだが、会長と何やらジム運営の話をしに来たみたいだ。きっとジムのホームページ作成について話しているのだろう。

長時間の面談が終わるとその人が私のもとにやって来た。

そしていきなり「岡橋、ミット持ったるわ。打ってこい!!!」

今までその人が私のミットを持つなんてことはなかった。違和感のある展開だ。

その一言だけで会長がこの人に何かを頼んだことがすぐにわかった。

しかし急な展開だったので「もうボクシング辞めました」なんて言葉がすぐに出てこない。

条件反射で「はい、お願いします!!」と応えてしまった。

しぶしぶ付き合う形になったのだが、ミットを持ってもらい、打ち方を指導してもらうとやっぱり楽しい。何かに取り組んでいると生きてる心地がする。

 

 

自分の中で何かが動き始めた。

 

 

会長が更にけしかける。

ある選手がたまたま早めに練習にやって来た。

会長「お前今日誰かとスパーリング予定あるの」

選手A「ないです」

会長「スパーリングしたい?」

選手A「はい、したいです」

会長「そっかぁ、誰かおらんかなあ、早めに誰か練習来てくれたらいいけどなあ。」

とてもわざとらしい。

今このジムに選手と呼べる者はその人と自分の2人しかいない。

会長「だれかおらんかなあ」

思いっきり私に聞こえるように会長がつぶやいている。

(誰かって、、、、もう自分しかおらんやん笑)

あまりにわざとらしいそのつぶやきが聞こえた時、自分の感情が少しずつ変化していったのがわかった。

その瞬間はどんな感情なのかがわからなかったが、今になってやっと言葉として表せる。

きっとどこかで少しうれしさがあったのだ。自分のことを気にかけてくれている、それを感じ取れた。

会長「せっかくやし今日スパーリングしたいなあ」

「スパーリング相手になってもいいですか」

会長「えっ、いいけどほんまにするの?」

まさかこんなことくらいで気持ちが動くとは思わなかったのだろう。でも私にとってはそれで十分だった。

「やります」

そうと決まれば一気に気合が入る。

(よし!!!やるか!!!)

やるからには本気でいく。1カ月も休んだ。疲れなんてない。おもいっきり動ける。

会長「よし、今からスパーリング始めよう!!!すぐ用意して」

スパーリング開始のゴングと共にボクシング生活が再開した。

この時自分ではわからなかったが、あとから動画を見直すと、ガードがしっかりできている、相手のパンチにビビっていない、頭を振ってパンチを避けている、攻撃をされたら攻撃し返して終わっている等の基本的なことができるようになっていた。プロとしての戦い方ができ始めている。

コロナの間、成長していないようでしっかり成長していたみたいだ。

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