㉞かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~ファールカップ龍一~

初回記事①息子に会いたい

前回記事「㉝記憶喪失」

目次

北園龍一

公務員ボクサー

公務員で頭が良いはずなのだがジムで一番空気が読めない。この選手を見てると空気を読む力と頭脳は一致しないことが良くわかる。

以前ブログにも書いたが私がスパーリングでダウンし意識がもうろうとしているときに、わざわざ私のところに来て「ファールカップ貸してください。今日忘れてしまったんです」と頼みに来た選手だ。

この時ジム内には10数人の選手がおり、全員がファールカップを持っている。なのになぜよりによってこちらに頼みに来たのか。

通常、公務員は副業が禁止なのでプロとして活動することができない。しかし今回紹介するファールカップ龍一は大阪府内で市役所勤務。公務員として働きながらプロボクサーとして活動している。

ファイトマネーをもらわないことを条件に市長から許可をもらってプロとして活動している。

小さなころから格闘技に憧れていたが親の反対でその道に進むことができなかった。

彼はもう社会人。自分の意志でプロの道にやって来た。

血の気はないしオラオラでもないが、リングに立つと急に熱くなる。

技術は無くても気持ちと馬力だけで相手をねじ伏せる。しかし気持ちが入りすぎて周りが全く見えなくなる。

スパーリング相手を投げ飛ばし、よろけた相手を上から殴りかかる困った奴。

スパーリング中はセコンドからの会長の言葉が全く聞こえなくなる。

会長「フックじゃない、ジャブを打て、ジャブや!!ジャブや!!ジャブ!!!何回言わすねん!ジャブを打てって言ってるやろ!!」

会長「ガードをしろ、打ち合うな!手を上げろ!!ガードや!ガードって言ってるやろ!」

スパーリングが終わると必ず会長からの説教が始まる。技術うんぬんの説教ではない。

会長「セコンドからの声を聞け!!」

ファールカップ龍一「はい、すいません⤵」

とても落ち込んで反省してはいるのだが、話が終わり会長が視界から消えた瞬間怒られたことはきれいさっぱり忘れる。

殴り合うと周りの声が何も聞こえない暴走機関車。

ただただ相手をまっすぐ睨み、倒してやる!!とばかりに殴りかかる。

そんなファールカップ龍一にある日試合の申込みが来た。

会長「龍一、ついにお前に試合の申込みが来た。デビュー戦やな、しっかり気合入れて勝つぞ」

ファールカップ龍一「会長すいません。その日友達の結婚式なんです。なので試合できません」

アルバイトか!!

友達の結婚式で試合を断るプロを始めて見た。この時会長とどんな会話があったのかは知らないが、本当に試合を断ってしまった。

空気が読めないファールカップ龍一だが、試合になるとものすごく強い。

デビュー戦からずっとKO勝利!!

試合中もちろん会長の声は彼に届かない。

会長「前に突っ込むな!!下がれ!!行くなって言ってるやろ!!なんで手を下げて打ち合うねん!!まだ1ラウンド目や!」

「ガードを上げろ!!パンチもらうぞ!!顔がら空きになってるんや!!」

「まだ倒しに行くな、ジャブでいい!!ジャブ、ジャブ!ジャブ!!フックじゃない!!!

1ラウンド目から何してんねん!!」

会場に響き渡るくらい大きな声で叫んでいるのに、会長のこと嫌いなんか?ってくらい全く声が届いていない。

時折相手と距離を取って「うんっ」とうなずきはする。声が聞こえたかと見せかけて2秒後にまた打ち合っている!

ヒヤヒヤする場面もあるが、そんな戦い方でずっとKO勝利!

ある日ファールカップ龍一が相手に何もさせず快勝したしたことがあった。

左目の上には小さなアザ。プロの試合ならこれくらいのアザはノーダメージと言えるくらい完璧な試合。顔がとてもきれいな状態で試合を終えた。

「おめでとう!!圧勝やったな!目の上のアザ大丈夫?」

ファールカップ龍一「大丈夫です。一発ももらってないんで」

 

いや、もらってるやん。

 

「小さいアザやけど氷で冷やすか」

ファールカップ龍一「大丈夫です。一発ももらってないんで」

ではその傷は一体何なんだ。

映像を確認すると確かにパンチをもらっている。

他のボクサーが勝利を称えに控室に来る。

「おめでとう!!今日もKOやったな!!」

ファールカップ龍一「ありがとうございます。一発ももらわず勝ちました!!」

会長もやってくる。

会長「今日は圧勝やったな。おめでとう。でもセコンドの言ってることをしっかり聞け!いつかやれるぞ。ほんまに危ないからな」

ファールカップ龍一「すいません。

でも

 

一発ももらわず勝ちました!!(満面の笑み)」

パンチをもらったことを忘れるほどよっぽど気持ちよく勝てたのだろう。一週間後にもう一度話を振ってみる。

「この前の相手、パンチ力合ったん?」

ファールカップ龍一「わからないです。一発もパンチもらってないんで」

一週間経ってもまだ続く。

この一年後、同じ相手と私が試合をすることになる。私のボクシング人生で最後の対戦相手だ。

「龍一君がこの前戦った相手と試合することになったんやけど、あの選手の情報知りたいねん。覚えてることあったら教えてくれへん?」

ファールカップ龍一「過去の映像見ましたか?KO勝利してたでしょ。だからパンチ力はあると思うんですよ。でも僕一発もパンチもらってないんでどれくらい強いパンチかわからないです。でも岡橋さんならきっと勝てますよ。あの選手は全体的に弱いです。だって僕が一発もパンチもらわずに勝てた相手なんで。」

きっと認知症になっても言い続けるのだろう。

イラっとするがやる気と根性は誰よりもある。

パンチ力と馬力で勝ち進んでいたが、プロの世界はそれだけで上に行けるものではない。やはり技術と冷静さを兼ね揃えないと生きていけない。

セコンドの言葉がどれだけ大事か、私もデビュー戦で痛感することになる。

 

 

※毎週火曜日の夜に記事を更新しています。

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