⑫かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~スパーリングでボッコボコにやられる~

初回記事「①息子に会いたい」

前回記事「⑪ボディーは打たせてやれ」

目次

ボクシングの技術習得は本当に難しい。

テレビで見ていると簡単にパンチを打っているように見えるが、ジャブが形になったのは引退する半年くらい前だったと思う。

ジャブのパンチたった一発でもきれいに打つのが難しい。

どれだけ練習してもしっくりこない。

みんなと同じようにジャブを打てない。

技術習得ができないのであればまずは体だ!!

全体の練習が始まる前から自分一人だけ筋トレを開始し、30分ほど思いっきり動き続ける。

みんなが集まってくる6時くらいにはすでに筋トレでヒザがガクガクになっている。

そこから15分ほど休んでみんなと同じ練習を始める。

みんなと同じように練習し、最後にまた筋トレを入れる。

全体の朝練もサボることなくいつも午前6:30に集合し、決して手を抜くようなことはしない。

そんな生活を週6で続け、練習の無い日曜日は生活費を稼ぐ為に10時間くらいアルバイト。

体を休められる日は無かった。

こんな日常を毎日毎日、本当に毎日ずっとくり返す。

ジムに来たときは一番体力が無かったが、しばらくすると誰も自分の筋トレについてこれないくらいまで体力がついていた。

いつの間にか体の強さに自信を持てるようになった。

ある日のスパーリング。

自分より遅いタイミングでジムに入会した人とスパーリングをすることになった。

この子の特徴として、ボディが弱い、スタミナが無い、パワーも目立って強いわけでもない。

長所としては、ちょっとだけボクシングのセンスがある。

相手の方が5㎏程体重が重いので自分が不利ではあるのだが、体の強さ、練習量からして互角に殴り合える相手だ。

そんな人と初めてのスパーリング。

予想とは裏腹にボッコボコにやられた。

面白いほどパンチを当てられてしまう。なんでこんなに当てられるんだ。

ガードが間に合わない。

パンチの飛んでくるタイミングがわからない。

気が付いたら当たっている。

対処できない。

距離を取らないと危険だ。いったん距離を取ってどうしようか考えようとしても相手が詰めてきてまたパンチを当てられる。今まで練習してきたことが全くできない。

自分の方がパワーがあるはずなのに、

自分の方がスタミナがあるはずなのに、自分の方が苦しい練習をしてきたはずなのに、

なんで、

なんで、

なんで、

頭が混乱し、解決の糸口が見つからずにスパーリングが終了。

しばらく放心状態だった。これからどうすればいいのかわからない。

今まで一生懸命突っ走ってきた自分のすべてを否定されたスパーリングだった。

あんなに走ってきたのに、あんなに筋トレしたのに、あんなにサンドバッグを叩いてきたのに。

その成果を全く出せないスパーリングだった。

更衣室に籠り、一人で泣いていた。

「技術習得は簡単ではない。体を鍛えることなら頭を使わずすぐに出来る。じゃあすぐに成果が出るものからやってしまおう。」

この考えが甘かったのか。もし考え方が間違っていなかったとしたら鍛え方が足らないのか。

いや、そんなことは無い。トレーニングはこれ以上できないところまでやっている。

これから一体どうすればいいんだ。

自分にはボクシングのセンスは無い。

絶望的にない。

いつかは技術を覚えられるだろうがだいぶ時間がかかる。

技術の習得は期待できない、体を鍛えてもそれだけでは足らない。

このままでは後から入ってくる練習生たちにどんどん抜かれていく。

いったいどうすればいいのか、、、、

今日はもう練習を切り上げよう。

考えても気分が落ち込んでマイナスのことしか頭に浮かばない。

もしかしたら少し自分に期待しすぎていたのかも。

自分の実力なんてこんなもんだ。

きっとこれが自分のペースだ。

まずは目の前の受け入れがたい現実を認識することができないと前に進めない。

ボクシング用品紹介記事

次回記事⑬「体が壊れる」を理解した。

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