㉘かっこいい父親になりたくて、銀行員を辞めてプロボクサーを目指す ~プロテスト結果発表~

初回記事「①息子に会いたい」

前回記事「㉗最後の笹山さん」

目次

更衣室で着替えながら今日のスパーリングを振り返る。心は落ち込んでいるが幸いにも頭ははっきりしている。

ダウンの影響は無さそうだ。

自分の中で「プロだ」と自信を持てるほどの技術はまだない。

テレビで見るボクシングの動きと自分の動きは明らかに違う。

更に昨日と今日で感覚も全然違う。

昨日掴んでたパンチやフットワークの感覚が今日は忘れてしまってる、そんなムラが多すぎる。

その違いがほんのちょっと違うのではない、びっくりするほど違うのだ。

パンチの打ち方をまだわかってないせいで、どこがズレてるのかが分析できない。周りからはバランスが崩れていると言われるが、ではバランスっていったいなんだ。どの状態がバランスが良くてどの状態が悪いんだ?

感覚に頼り切ったボクシングをしてると、2カ月も休んでしまえば全く打ち方がわからなくなる。

打ち方を口で説明できないうちはまだまだプロではない。しっかり頭で理解できていなければ単なる町中の喧嘩自慢だ。

合格したくて諦めずにスパーリングしたが、一方で胸を張れない自分が不合格を望んでしまっている。

 

 

選手全員のスパーリングが終わりついに結果発表の時間が来た。

試験会場内に合格者一覧表が張り出される。うちのジムの受験者は3人。

合格が一番有力視されていた三田井の名前の横には〇がある。つまり合格だ

笹山さんの名前の横は空欄。やはり落ちてしまったか。

自分の名前には、、、、、、

 

 

あった。

え?〇がついてる。なんで?

合格?

これ本当に合格発表一覧表なんかなあ??

何度も見返すが、やはり合格のようだ。

プロになっちゃった。 。 。 。あらら。

不思議と嬉しさがそこまでない。あまり納得できていない自分がいる。

「会長、何故か合格してました」

会長「俺もさっきそれ知らされたんよ。ほんまに合格ですか?誰かと間違ってませんか?って聞き直したもんな」

会長が合格の理由を聞いてくれたらしく、技術自体は合格ラインギリギリ、なんなら不合格でもいいレベル。更にダウンまでして大きく減点になった。これは不合格だなと思ったがそこから諦めずに巻き返すことができてた。

そこが評価のポイントになったみたいだ。

「テストは技術だけじゃない。気持ちが大きく採点に影響する」

愚直にその言葉だけを頼りに諦めなかったことが今回の救いになったみたいだ。

何はともあれ合格。

一応予定通りプロのジムに入ってから約1年でテストに受かった。

かっこいいお父さんとして息子と再会したいと思って始めたボクシング。

あまり納得できない状態で目標が叶ってしまった。

プロボクサーってこんなもんなのか。自分が追い求めていたものってこんなものなのか。

プロテストのライセンスを取るって言いだして始めたボクシング。

「ライセンス取っても俺はプロとは認めん。例え試合に負けてもいいからあのリングに立ってこそプロや!」

「C級のライセンスなんて取っても価値は無い。銀行で働くほうがいい」

あの日世界チャンピオンの経営するbarでのぶさんに言われた言葉やアマチュアジムで教えてもらった会長の言葉が頭を駆け巡る。

かっこいいお父さんを目指していたが、今の自分は胸を張れるものではない。

一応ライセンス取得を一つの区切りに考えていた。しかしこれで終わってもいいものか。

何故かダメな気がする。でもその理由をはっきり言葉にできない。

決断はもう少し後でもいい。今すぐ決める必要は無い。

区切りを見失ってしまい、これから何を目指せばいいのかわからなくなってしまった。

とりあえずこの日は夕方からバイト。それが終わってからささやかな自分へのお祝いで一人ラーメンを食べに行き、コンビニでスイーツを買った。

ダウンしたんだから休んだ方がいいのだが、財布がそれを許してくれない。

まだしばらく貧乏生活が続きそうだ。

写真は合格した時に井岡弘樹ジムの前で撮ったものと、その日食べたラーメン

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